婚約破棄されたい公爵令息の心の声は、とても優しい人でした

17.王太子殿下とクリスティーヌ

「これは一体何の騒ぎだ!? なぜ会場の扉が壊れているんだ!?」

 会場内に入ってくるなり声を荒げたのは、先程ここで婚約破棄劇を繰り広げたカロル王太子殿下だ。

 突然の王太子殿下の登場なのにも関わらず、会場内の人々はさほど彼に興味がない様子。今はとにかく明日からの我が身を心配する事に必死でそれどころじゃないのだろう。
 誰からも注目されていない事に若干の戸惑いを見せた王太子殿下だが、ヴィンセント様の存在に気付くと不敵な笑みを浮かべてこちらへやってきた。

「ああ、ヴィンセントじゃないか。久しぶりだな。こうして会うのは二年ぶりか?」

 相手を見下す様なその口ぶりから、彼がヴィンセント様に対してあまり良い感情を抱いていない事がよく分かる。私も王太子殿下に対して良い感情を抱いていないけれど。

「……お久しぶりです。カロル王太子殿下」

 ヴィンセント様が無表情のまま言葉を返すと、王太子殿下は怪訝そうに眉をひそめてジロジロとヴィンセント様を観察し始めた。

「ん……? 確かお前は()()()()()()()になったと聞いていたが……見た所そんな風には見えないな」
「ええ。どうやら、先ほど階段から落ちた時に頭を打ったおかげで以前の自分に戻ったようです」

 ……なるほど。そういう事にする訳ね。

 そう納得するけれど、心の声が聞こえないから彼が何を考えているのかよく分からない。
 今まで心の声が聞こえていた事が普通じゃなかったのだけど……。
 急に聞こえなくなるというのも、少しだけ寂しい。
 彼と心の距離が離れてしまったような……そんな風に思えてしまう。

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