婚約破棄されたい公爵令息の心の声は、とても優しい人でした
 公爵様とヴィンセント様は似ている。
 二人とも、誰かを守る為には自らが犠牲になる事もいとわない……とても優しい私の大好きな人達だ。

 そんな優しい人(ヴィンセント様)に、国王陛下は言葉を続けた。
 
「だが、時には無情になる事も必要だ。本当に守るべき者を間違えるのではないぞ。……まあ、今のお前ならその事はよく理解しているようだがな」
「はい。重々承知しております」

 真っすぐ言葉を返すヴィンセント様に、国王陛下は満足気に目を細める。
 その姿は親戚のおじさんが成長した甥を見て感心する姿そのもの。……まあ、実際そうなのだけど。
 
 だけど次の瞬間、親戚のおじさん……こと、国王陛下の瞳が鋭く尖る。その口からは一層低い声が出た。

「さて……どうやら今日、このめでたい場に相応しくない騒ぎを起こした者がいるようだな」

 ぎくり……。
 それって……扉を壊した件でしょうか……。
 どうしよう。今から土下座したら許してくれるだろうか。

「そうです! 父上! 扉を壊したのはどうやらヴィンセントの婚約者で――ひぃっ!!?」

 私を指さし声を上げた王太子殿下が突然悲鳴を漏らして顔を青ざめる。
 こちらを見ているようだけど……いや、ヴィンセント様を見ているのかしら?
 ……ああ。分かった。ヴィンセント様が物凄い形相で王太子殿下を睨み付けているわ。

「私が言いたいのは扉の件ではない。あれは老朽化が進んでいたから、近いうちに新しい物と取り換えようと思っていたところだ。今更壊れたところで何の問題もない」

 国王陛下……あなた、神ですか……?
 思わず小さく拝んでしまう。

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