婚約破棄されたい公爵令息の心の声は、とても優しい人でした
「問題があるのはお前の方だ。カロル」
「……はい?」

 その言葉に、王太子殿下は気が抜けた返事をすると、パチパチと瞬きを繰り返す。
 国王陛下は憎悪にも似た冷たい眼差しを王太子殿下へ向け、口を開いた。

「お前はさっき、この場でエミリア嬢に婚約破棄を申し立てたそうではないか」
「は……はい! そうです! 父上にもご報告しなければと思っていたのですが……。実は、エミリアは学園内で気に入らない女子生徒に悪事を働くような卑劣な女だったのです! そんな女性が王妃になるなど有り得ない事です! ですから彼女とは別れて、この心優しいクリスティーヌを新しい王妃にと――」

 王太子殿下の言葉を最後まで聞く事もなく、国王陛下は唸る程大きく深い溜息を吐いた。

「お前は本当に何も分かっていないな……。エミリア嬢が何故お前の婚約者に選ばれたのか……」
「え……?」
「彼女を婚約者に選んだのは私だ。無駄な継承権争いを避ける為にも、長男であるという理由だけでお前に王位継承権を与えたが……とてもお前にこの国の王が務まるとは思わなかった。そこでアーデル侯爵家のエミリア嬢に王妃としてお前の足らない部分を補ってもらおうと思ったのだ。彼女はお前と違って有能で人望もあったからな。最初は首を縦に振ってはくれなかったが、なんとか頼み込んで承諾してもらった。それなのにも関わらず……何の相談も無しに婚約破棄を一方的に突きつけるとは……お前の無能さには呆れて言葉もでんわ」
「え……父上……そんな風に私の事を思っていたのですか……?」
「私だけでない。多くの者達が同じ様な事を思っているだろう」
「な……!?」

 王太子殿下はバッと周りを見渡すが、誰もが視線を合わせようとしない。
 どうやら、心の中で考えていた事は皆同じなようだ。
 気の毒だけれど、私も国王陛下の言う通りだと思っているし。

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