婚約破棄されたい公爵令息の心の声は、とても優しい人でした
 恥ずかしくてとても目を合わせられない私に、ヴィンセント様は言葉を続けた。

「レイナ。俺の為に立ち向かってくれてありがとう。君の勇敢な姿は本当に素敵だった。思わず見惚れて動けなくなってしまう程に。……だが……どうやら俺は少し勘違いをしていたようだ」
「勘違い……ですか?」
「ああ。俺はずっと君はとても強い人間だと思っていた。それは今も変わりはない。だが、いくら強い人間だからといって、傷付かない訳では無い。君はこんなにも傷付きやすいのだと……今更ながら気付いたよ」

 そう言うと、ヴィンセント様は治療を終えた私の右手を気遣う様に優しく撫でた。

「……私なら大丈夫です。たとえ傷付いたとしても、打たれ強さでなんとかなります」

 今までもそうだった。
 体も心も、どんなに傷付こうともずっと耐えてきた。
 それはこれからだって変わらないだろう。 

「そんな事はない。君は脆く儚い存在だ」

 ……その言葉は……私には言ってほしくなかった。
 それはずっとヴィンセント様を苦しめていた言葉でもあるのだから。

「だが、何の問題もない」

 そう言うヴィンセント様の声はどこか吹っ切れた様に潔かった。

 握っている私の手を、ヴィンセント様は宝物でも愛でる様な視線で見つめ、ゆっくりと持ち上げる。

「これからは俺が君を守れば良いのだから。体も、心も」

 そう囁くと、ヴィンセント様は私の手の甲に優しく口付けた。 

「――!!?」

 あまりにも突然の出来事に、沈みかけていた心が飛び上がった。
 手の甲から唇を離したヴィンセント様は愛しくて仕方ないという眼差しで私を見つめている。
 その唇が再び言葉を紡ぐ。

「俺も、真実の愛を見つけたのかもしれないな」

 そう言うと、ヴィンセント様は少しだけ意地悪そうな笑みを浮かべた。

 キスされた事にも、その言葉を聞かれていた事にも恥ずかしくて、心音はありえないくらい早くなり頭の熱は沸騰直前。

 どこまでも上がり続ける熱に浮かされ、私の思考回路は間もなく完全に停止した――。


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