婚約破棄されたい公爵令息の心の声は、とても優しい人でした
20.婚約破棄されないために
◇◇◇
一ヶ月後――。
「レイナちゃーん! 会いたかったよー!」
私の屋敷前に到着した馬車の中から、陽気な声と共に飛び降りて来たのはもちろんヴィンセント様。
へらへらと気の抜けた笑顔を浮かべて大きく手を振りながらこちらへやってくる。
……え……? そのキャラ、やめたんじゃなかったの……?
もう二度と会う事は無いと思っていたその姿に、私はただ唖然とするしかない。
ヴィンセント様は私の目の前までくると、私の右手の甲をジッと見つめた。
「レイナちゃん、手は大丈夫?」
一番にその事を心配してくれる彼の優しさに、戸惑う気持ちが少し解れた。
「はい。おかげさまで傷も残らず綺麗になりました」
「良かったー! 今度また怪我したら教えてね! 僕が痛いの痛いの飛んでいけー! ってしてあげるから!」
「……ありがとうございます」
懐かしく思えるそのテンションにいつも通り応える。そこへ、ヴィンセント様に付き添っていた公爵家の使用人が私の近くへやってきてそっと耳打ちした。
「レイナ様。非常に申し上げ辛いのですが……実はヴィンセント様は三日前に階段から転げ落ちた時に頭を強く打ったようで……」
「…………え?」
「再びあのような姿となりました」
……いや、それって絶対に――。
(自作自演だけどな)
でしょうね。おかえり心の声。っていうか、なんでそうなっちゃったの……?