婚約破棄されたい公爵令息の心の声は、とても優しい人でした
(どうだ、レイナ。君の好きな俺の姿をしっかりと堪能してくれ)

 なんでそうなっちゃうのよ……。

 つい一ヶ月前に煌めく程の美貌で私をどぎまぎさせていた彼の姿の面影はもはや見られない。
 その代わり、目の前には青空の様な瞳に涙を滲ませ助けを求める残念なイケメン。

「レイナちゃ~ん」

 情けない声で私の名前を呼ぶ彼の元へと重い足を運ぶ。

 どうやら、こんな姿の彼との付き合いはもう暫く続くらしい。その心の声とも。

 私はヴィンセント様の手を掴み取ると、思いっきり持ち上げた。ぴょーんと飛び上がり、ストッと地面に到着した彼は満面の笑みを私に向けた。

「ありがとう! レイナちゃん、大好きだよ!」

(大好きだ、レイナ)

 それは彼からの初めての告白だった。
 心の声でも未だ聞いた事が無かった言葉。

 不意打ちの言葉を同時に浴びせられて、私の顔が一気に火が出そうな程熱くなるのを感じた。
 顔を覆い尽くすおしろいがなければ、きっと熟したリンゴのように真っ赤に染まっていただろう。

 残念だけど、本当の彼の姿でその言葉を聞く事はまだ先になるらしい。ざっと半年程……。

 仕方がないから、今はこの告白で満足してあげよう。
 なんだかんだで、子供の姿の彼も好きだし。
 あと半年、その茶番劇に付き合ってあげるわよ。

「はい。私もヴィンセント様が大好きです」

 私が笑顔で返した言葉に、彼は一瞬だけ大人の表情(かお)をして嬉しそうに笑った。



<完>

最後まで読んで頂き、ありがとうございます!
二人の物語、いかがでしたでしょうか?

皆様にとって心に残る物語になりますように……。

三月叶姫
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