乱反射して落ち合おう【完】
廊下でギャンギャンと言い合うお姫様と王子様。
わたしは呆気にとられ、ぽかんと口を開いて二人を眺めていた。

集まる野次馬。
潤みはじめるお姫様の大きな瞳。

さすがに止めなきゃと思っていると、ヒートアップした王子様は顔に似合わない言葉を発した。


――どうせお前だって他の男と遊んでるんだろ? このヤリマン!


プツリと頭のなかで音が鳴り、握りしめた拳を王子様に振りかざそうとした瞬間、王子様は勢いよくふっ飛んでいった。


――そんな女じゃねえよ、このヤリチン!


声のする方を見ると、顔を真っ赤にした芳賀がわたしと同じように拳を握りしめ、全身をわなわなと震わせていた。

アメコミヒーローが大好きで、頭がいいわけでも悪いわけでもなく、運動神経はいまいち。
ひょろっとした体でへらっと笑う芳賀のこんな姿を、誰が想像しただろう。


冷たい床に無様に倒れ込んだ王子様。
流れる鼻血で染まっていく白いシャツ。

うっすらと鉄の匂いが漂った。


いいぞ、もっとやれ。
野次馬が盛り上がるなか、芳賀はナツミに向かってぺこんと頭を下げた。


――騒ぎでっかくしちゃって、ごめん。


芳賀がへらっと笑った瞬間、ひとりの女が恋に落ち、ひとりの女は自分が芳賀に抱いていた感情が「恋」であったと気付いた。
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