乱反射して落ち合おう【完】
――節子(せつこ)さんっていうんですね。
シワシワネームなんて思ってないですよ、本当に。
むしろ新鮮でいいと思います。


一つ年下の御子柴くんはそう言って、八重歯を見せて笑った。

これで黒目がちだったら芳賀っぽさが増すな、なんて思っていたら連絡先を聞かれた。
特に断る理由もなく、いいよと返すと、御子柴くんはまた八重歯を見せた。


その日から、御子柴くんは毎日欠かさずにメッセージを送ってきた。


猛暑日には「水分しっかりとってくださいね」
疲れているときには「うちの猫に癒されてください」と、ふわふわの猫の画像つきのメッセージ。

猫は、とろけそうな顔をして御子柴くんの腕に抱かれていた。

最初は同じくらいの文章量で返信していたものの、そういったやり取りが苦手なわたしは、日に日に短文で素っ気ないメッセージを返すようになった。
それでも御子柴くんはメッセージを送ってきた。

ある日、なにかの話の流れで「寿司が食べたい」と送ると、「水族館に行きましょう」と誘われた。
どう断ろうか考えていると「アザラシが好きって言ってましたよね」とメッセージがきた。


わたしは、アザラシと「わたしを好いてくれる人間」に釣られてしまった。


水族館のあとに食べる回転寿司は、背徳の味がした。


――なかなか鬼畜ですねえ、俺たち。


笑いながら掴まれた手を、振りほどこうとは思わなかった。
気持ちのいい体温が、やわらかく私を包み込む。
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