乱反射して落ち合おう【完】
私はグビグビとチューハイを流し込んだ。
喉から胃、胃から頬。
かあっと熱が広がっていく。
お酒ってなんて便利だろう。
たった数百円でふわふわ出来る。

「母ちゃん、冷やし中華と味噌ラーメンどっちがいい?」

お前の母ちゃんじゃないわ、と睨みをきかせる。
芳賀はへらっと笑い、富士山みたいな上唇がなだらかになる。
こんな山は登り甲斐がない。
でも、この顔はとてもいい。

「キュウリがしなしなになっちゃってたから、冷やし中華なら具はハムしかない。
味噌ラーメンなら具はハムと玉子。
どっちがいい?」

「なんで冷やし中華だと玉子は具に入らないの?」

「だっておれ焼けないもん。あの薄い玉子焼き」

なるほど。そういうことか。
わたしはまたグビリとチューハイを流し込む。

「せっちゃん薄い玉子焼き、焼ける?」

「片栗粉があるなら」

あるわけないじゃんと笑いながら、芳賀は片手鍋を左右に振る。

「で、どっちがいい?」

「この家って七味はある?」

「多分どっかにあるはず」

「じゃあ味噌ラーメンがいい」

「オッケー」

七味をどばどば投下した真っ赤な真っ赤な味噌ラーメン。
辛さに悶えていれば痛みには鈍くなれるかな、なんて思う。
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