ラムライムシュガー
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地獄に堕ちてもいい、と、それでも欲しくてはじめた恋だけど、ひとりで抱えるには随分といきぐるしい。
いつしか自然と漏れてしまうようになった溜息のせいで、また今日も、さらに体が重たくなっていく気がした。1年で唯一の日に、私はなにをしてるんだろ。
コトッと。
そんな私に声をかけるように、やさしく小さな音を立ててカウンターに置かれたグラス。
琥珀色と透明な氷の色が混ざりあってキレイだなぁと思うのに、氷がたくさん詰まっている姿は、なんだか窮屈そうにみえる。
とりあえずお礼を言おうと顔をあげると、見覚えのあるバーテンダーのお兄さんが嘘みたいににっこりと笑う。
「ステキな恋をしてくださいね」
「え?」
「 ”振り向いてください” という意味のカクテルなので。叶わない恋をされてらっしゃるのかと」
「あ、はは。なんだ、そういうことか!
たまたまですよ、たまたま。おいしそうだなぁかわいいなぁって、そんな感じで頼んだだけですよ」
見事に当たってしまったバーテンダー占いに、ほんとうのことを誤魔化すように笑ってはみたけど、お兄さんは全てお見通しかのような微笑みを浮かべて「ごゆっくり」と一言だけ添えた。
入店後、なんとなく惹かれてオーダーしていたアプリコットフィズのカクテルが、今まさに、私が認めたくないと思っている言葉を隠し持っていたなんて。
このカクテルを口にすることは、それを認めてしまうみたいで気が進まない。
「…ほんと、なにしてるんだろ、私」