ラムライムシュガー




本日何度目かのiPhoneチェックに、本日何度目かの溜息をついて、体の中に取り入れたくないアプリコットフィズの代わりに、アルコール度数なんて一切ない、ただのデトックスウォーターで口の中を潤す。

ほんのり広がる清涼感のある味が、舌を洗って鼻に抜けていく感覚はたしかにあるのに、自分の中にある毒性は出ていかないどころか、1秒、また1秒と、浸食して私を蝕んでいく。


そんな状態でも、残るのはいつも、純粋なたったひとつだった。



「…会いたいなぁ」



真琴に絶縁されてから、あっという間に1年半が経とうとしているのに。


”会いたいのに、会えない” というくるしさに、いつまで経っても慣れない。


特に、今日みたいな日は。



デトックスウォーターの入ったグラスを手のひらで転がしながら、さりげなく店内を見回してみると、おしゃれタウンのおしゃれバーらしく、カップルみたいな人達が多くて、なんでこんなところにのこのことひとりで来ちゃったんだろうと、余計にむなしくなる。


もっとバーは、おひとりさまにやさしくあるべきだ!なんて、あのヒトと一緒にくるときとは、恐らく正反対の不満を心の中でつぶやいて、ふたたびメニューに手を伸ばす。


今の私には飲めるはずもないアプリコットフィズを端によせると、誰かの気配を感じて、弾むように右側をみる。



「アイツだと思った?」

「…っ!」



よく考えれば、においが全然違うのに。


自分でもわかるくらいに ”女” の顔をしてしまったあと、遠慮もなく落胆をにじませてしまった。





< 4 / 15 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop