災厄の魔女が死神の愛に溺れるとき
 ルーナが十歳の頃、自分は養い親で本当の両親は他にいるとフランから聞かされた。本当の両親がどこにいるかは興味がなかった。ルーナにとってフランは確かに親で、師だったから。どんな理由があったかわからないが、フランが愛情をもって育ててくれた事はわかるし、何となくそうじゃないかなあと感じていたからあまりショックを受けなかった。

 だが、いま目の前で息を引き取って動かなくなったフランを目の当たりにすると喪失感は半端なく、急激な不安と寂しさが襲って来た。まだ声を掛ければ目をあけてくれるような顔つきで眠っていて、頬だってやわらかく温かい。

「フ……ラン、フラン? 目を開けて、お願い、今、ひとりにしないで……木の実、ね、集めてきたの、炒めて、それで、それでね……っ」
 薄く、暖かくもない上掛けから出ているフランの手を握って話しかける。まだ温かいし柔らかいのに、その手は二度とルーナの手を握り返してくれることはないのだ。その口はルーナの名を二度と呼んではくれない。

『なーにやってんだい、そんなんじゃ腰を傷めちまうよ』
『明日はルーナにご飯作ってもらおうかな』
『アタシは無理だったけど、お前は大事にしてくれる人ときっと出会えるよ、なんたって可愛いからね』
 節くれだった不器用そうな手で頭を撫でてくれた時のこと、魔法を教えてくれた日のこと、熱を出した夜に目を開けるとフランが居てくれて安心した夜のこと、フランとの思い出の日々が走馬灯のように駆け巡る。同時に、寝込んでからのフランにはあの時こうしたらよかった、あれもしてあげたらよかった、と後悔も次々に浮かんできて、フランの身体に縋り付いて声を殺して泣いた。

 フランが張ってくれた結界は、今後少しずつ弱まっていく。今までは近づこうとしなかったし、ルーナに関わると命取りとまで言われているから手を出してこなかったが、これからはどうなるかわからない。

 夜通し、薬草畑に作った穴で焚き火をして歌い踊り明かした不良たちが疲れ帰った、日の出前の空が白み始めたころ、フランの身体をシーツで包んで背負い、埋葬するため森の奥を目指した。
 そこは腐葉土をもらっていた場所で、落ち葉が深く降り積もる、獣道からも外れた斜面だった。そこの一部をフランの身体の大きさに合わせて穴を掘り、フランを埋めた。使っていた箒とローブを被せ、泣きながら土を被せた。森の獣に荒らされないよう、腐葉土をこれでもかと上にかけて、低木の枝を何本か切って周囲に配した。

「フラン、育ててくれてありがとう。こんなに遠くにごめんね、供える花の一本も買えなくてごめん……」
 たった一本の花ですら、今のルーナには手に入らない。薬草畑が残っていれば野草くらいはあったはずだし、季節が春なら野の花だってあった。けど薬草畑はないし、季節は晩秋に近い。花など無い。かといって町に出て花を買おうにも、売ってくれる店も在りはしなかった。
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