災厄の魔女が死神の愛に溺れるとき
疲れ切って家に戻ると、町の人が複数人家の前にいた。カルラの夫の姿もあった。持っていたスコップを両手で握りしめ、全身を強張らせて家へ近づいた。
「魔女は死んだのか」
返答できずにいると、次々に好き勝手なことを言い出した。
「ここから出ていくのか」
「お前のポーションは、前も言ったとおり質が悪い」
「これまでの倍、作らないと売れない」
フランは、町の為にポーションを作り続けていた。困ったことがあれば力にもなってきた。災害が起これば箒に乗って被災者を助けに行き、夜中でも頼まれればポーションを作ってやった。町の人たちに悪さをした事はなく、感謝されこそすれ蔑まれる理由は無いはずなのに、そのフランの死を悼む言葉一つないまま、ルーナを攻め立てた。
「で、でも、薬草もないし、今日明日では無理です」
「あぁ? 三日のうちに作って持ってこい」
「薬草が無いなら買えばよかろうが」
言いたいだけ言って、彼らは町へ戻っていった。
ストックの薬草は、あった。だが必要なものは全て破壊されたし、取っておいた材料は燃やされて、もう何も残っていないのだ。買えばいいと言い放っていたが、行っても売ってくれないのは彼らだ。ルーナに何を求め、何をさせたいのだろうか。
「もうこれ以上、どうしろというの……どうして、こんな、奴隷みたいな……」
ポーションを作れなければ金が手に入らない。彼らから買ってもらえなければ暮らして行けない。だから、安くてもいいから買って欲しいと頼んだのに突き飛ばされ、金が欲しいなら身体を売ったらどうかと嗤われた。それがどういう意味か、ルーナは身震いした。
そして今、養い親を失ったばかりのルーナに、ポーションを作れと半ば命令のように言い捨てた。
フランがこれまで稼いで貯めてきた金は、フランが寝込む頃には底を尽き掛けていて、手元には自由になる金はほとんど無い。
だが泣いていても、金も材料も湧いてこない。なんとか材料を手に入れるため、フランが使っていた本や懐中時計、眼鏡などを売ろうと考えた。袋にこれらを詰め込んで家を出たが、町にはルーナを相手にしてくれる者は誰一人としていないから、山を一つ越えた隣町まで行く事にした。
半日歩きようやく着いた町でも、やはりルーナを見れば人が離れていった。ここの町は初めて来たのに、だ。質屋に声をかけるとあからさまに嫌な顔をされた。
「あんたとは取引きできない、不吉でかなわない」
「そ……ですか……」
「どの町へ行っても、『栗色の髪、緑の瞳をした『災厄の魔女』』の話は広まってる、諦めるんだな」
泣きそうなところを懸命に堪える。口を横に引き結んで、精一杯、笑顔を作って店主告げて店を出た。
「もう、やだ……」