災厄の魔女が死神の愛に溺れるとき
第三章
「はー……」
死神は大きく息を吐いた。
――なんなんだ? ここの奴らは。彼女がここまで酷い扱いを受ける理由は何一つ無いだろうが!
今しがた見た映像の中の幼いルーナは、とても愛らしく輝く笑顔をしていた。だが目の前に横臥している彼女はどうだろうか。頬はこけていて髪も艶はなくボサボサだ。かさついた唇は年頃の娘には似つかわしくないくらいに酷い。
あの弾けるような笑顔のルーナに会ってみたい。どういう声で笑うのか。
死神は、左手で持っていた鎌をパッと手放した。とても小さくなったそれは、シャラン、と音を立てて死神の首から下がる鎖に繋がった。
空いた手をルーナの上に差し出して手のひらを上に向けた。詠唱しながら、もう片方の、ルーナの額に当てた指から力を注いで深く眠らせ、やがて手のひらに、小指の爪よりも小さな丸い粒が現れた。それに自らの息をフッと吹きかけてから、ルーナのかさついた唇の間に押し込むと、粒はすうっとルーナの中に取り込まれて消えた。
――よし、これでいいか。
どこからともなく取り出した、自分と同じローブでルーナを包んで抱き上げる。とても軽い事に驚きつつ、雨の降りしきる家の外へ出て、夜空に飛び上がった。その時、雷がルーナの家に落ちた。空が破けるかのような音を轟かせて、辺りを一瞬にして昼間のように照らした雷光は地響きを伴って一軒の小さな家を火で包んだ。その地響きは、水分をたっぷり含んだ山肌を崩した。