災厄の魔女が死神の愛に溺れるとき
「ん……」
瞼の向こうがとても明るく、眩しさに意識が浮上し、ゆっくりと目を開けた。
「痛いところはございませんか」
やわらかい声で話しかけられ、意識が更にはっきりしてくる。
どこかの部屋にいて、そこはとても明るくて広くて、清潔だった。
ベッドサイドには、ひょろっとした背の、ガイコツ姿の何かが立っていた。頭部はガイコツで、首から下が黒い。それが胴体なのだろうと思うが、見たことのない姿で、まじまじと見つめてしまう。
「わたくしが珍しいですか?」
表情は見えないが、なぜか微笑んでいる気がした。
「えっ、あ、すみません!」
「わたくしはこの城の家来です。ルーナ様のお世話係を仰せつかりました」
丁寧に頭を下げた。
「あの、ここはどこですか、天国ですか? それになぜ私を様付けに……私は災厄の……なのに」
語尾を濁らせて俯く。例えそうでも、自分で口にするのは嫌だ。
「いいえ、貴方様はそんな言葉はお忘れください……これは主からお話があるでしょう、まずはお湯浴みをいたしましょうか。その上で支度を整えたら連れて来るよう申しつかっておりますので。さあ、こちらへおいで下さい」
戸惑うルーナを、室内の扉を開けて誘うガイコツ。彼はどこまでも穏やかで、丁寧だ。
扉を開けた向こうにもお世話係と同じ見た目のガイコツが控えていて、彼は自身をお風呂係だと名乗った。彼らに"名前"は無いようで、役職や担当箇所で名を呼び合う。不思議に思いつつ脱衣所に促されて一歩中に足を踏み入ると、お風呂係はルーナをあっという間に裸にした。そして「キャー!」と叫ぶ間も無く浴槽に放り込まれた。
ざぶん!と大きく飛沫をたてて、黄土色のお湯の中に放り込まれたルーナ。少しピリピリする感じもありながら、ぬめりのあるお湯の感触がすぐに気に入った。
「これ薬湯だ……」
フランと暮らしていた頃も、何度かこう言う匂いお湯を作り、タオルに染み込ませてフランの腰を温めたりした。薬草独特の匂いが、懐かしい思い出を引き出す。そこに思いを馳せていると、脱衣所から、頼んだ、任せろ、の短いやりとりが聞こえ、ガイコツが入ってきた。お世話係と交代したらしいが、見た目が全く同じだから入れ替わったのなどわからない。
「これ薬湯ですよね」
「お分かりいただけましたか、さすが魔女。お肌の炎症を抑えて、硬くなった皮膚を柔らかくしてくれる薬草を使っています、あ、もう少し肩まで浸かってください」
言われるまま、柔らかなお湯に身を委ねた。手足を思い切り伸ばした。