災厄の魔女が死神の愛に溺れるとき
「あの、ところで、私は何故ここに連れてこられたんでしょう? 何か聞いていますか?」
「我らが主のお考えですので、それはこのあと、主から直接お聞きいただいた方がよろしいかと存じます。ただ我らは、あなた様のお世話を、と命じられております故、何故か、までは分かりかねます、申し訳ございません」
お世話係もそうだったが、声のトーンで申しわけなく思っているのくらいはルーナにもわかる。変なことを聞いてしまっただろうか。
「そうですか……では、ここがどこかくらいは教えてもらえませんか?」
「それくらいなら。ここは魔界にございます」
「魔界……」
「あなた様は魔女でいらっしゃる。われらが主のようなお方、それからわれらのような者など、魔力を使う多数の種族が住まう世界にございます。王が総べておいでで、あなた様が住んでらした世界は人間界、ということになります」
わしゃわしゃと頭を洗いだしたお風呂係。その心地良さに目を瞑る。
――魔界……私を連れてきたのはここ魔界に住む方、ということね。
フランが寝込んでからはろくに洗えていなかった髪を、地肌を、花の香りのシャンプーでとても丁寧に洗い上げてくれた。何度か濯ぎをしてからタオルで頭を包んだら、次は浴槽から出るように言われて、たっぷりの、とてもふわふわした泡で身体を洗われた。もう恥ずかしかったが、拒否しても彼らの仕事を奪うことになるから、我慢して洗ってもらった。
全身をタオルで包み、脱衣所の角にあるベッドへ寝かされ、地肌のマッサージのほか、髪に良いとされるヘアオイルをつけられた。荒れた手指や足、ひじ、ひざ、背中などにも入念にヘアオイルと同じ香りのオイルが塗り込まれ、全身が柔らかく解れていく気がした。
張っていた気も、肩に入っていた力も抜けて、フェイスケアの際は、眉間のシワも伸ばされた。
――そうだ、ずっと顔をしかめていたかもしれない……。
顔は花の香りのする何かが染み込んだコットンで覆われて、これで全身が花の香りに包まれた。カルラが結婚前にお肌のお手入れに使うのだと言っていた美容液もこんな香りだったのかもしれない。ルーナは自分がまるでお姫様になったような錯覚を覚えた。
全てのケアが終わる頃、明るかった窓の外は薄紫色に変わっていた。夕方なのだろうか。そんな事を思っていれば、バサッと頭からワンピースを着せられた。どこも締め付けのない、薄いグリーンのふくらはぎほどの丈の、ゆったりしたワンピースだった。その上から茶色のチェックのショールを羽織らされた。
「夜は冷えます故、こちらをお使いください」
「ありがとう……」
寒いから、と気遣われたのは初めてだった。ぺたんこの布の靴を履けば完成だった。
脱衣所を出たところにはお世話係が待っていた。
「さっぱりいたしましたか? では参りましょう」
部屋を出る。ルーナの歩調に合わせてお世話係が先を行く。