災厄の魔女が死神の愛に溺れるとき
第四章
雷雨の夜、アドリアンはルーナを城に連れ帰った。
連れ出してすぐ、ルーナの家の近くの森に雷が落ちた。衝撃は火花となって辺りに散って、ルーナの家にも飛び火した。雨が降っていたにもかかわらず、古い家はみるみるうちに燃え上がった。
とりあえずルーナを安全な場所へ移してから、家の後始末をしようと決めて城へ急ぎ帰ってきた。
「おかえりなさいませ」
執事係のガイコツが出迎える。主が人を抱えていること、そしてそれが若い娘であることに気がついた執事係は何か言いたげだ。
「……部屋を、ひとつ用意してくれるか」
城はさして大きくはないが、客間はいくつかある。アドリアンの私室からは離れている、階も違う客間へと歩きだしてすぐ、執事係が聞いてきた。
「それはどのような部屋にございましょう。奥方用でしょうか、或いは恋人……それともただの客人……」
「今はとにかく彼女を寝かせたいだけなんだ。余計な勘ぐりはするな。それに、こっ恋人なんてっ、まだ、先でっ!」
恋人、と言われて途端に照れてしまった。照れる必要はないのに、と自分でも思いながら、長いこと死神をしてきて、刈りに行った魂だけでなく肉体そのものも持ち帰るなど初めてで、本人も少々戸惑っている部分もあった。
「……先に身を清めさせましょうか、お湯の用意を?」
ひどく汚れていて、弱って見えた。
「いや、体力が落ちているし今は寝かせてやりたい。これでも清浄化はしてあるから。許せ」
「かしこまりました」
「身を清めるのは目が覚めたら頼む。彼女のペースで清めてから、私のところへ連れて来い」
整えた客間に着くと、ルーナをベッドへそっと寝かせた。
「魔女だ。名はルーナという。魂を刈りに行ったんだが……」
「惚れたんですね?」
執事係の目が光り、かぶせ気味に言ってきた。
「ほっ惚れるなど、そんな俗な言葉で! ただ、ちょっと、もう少し、その……あまりにも、報われなさ過ぎて……だな」
アドリアンは耳まで赤くして必死に言い訳をした。執事係はごく冷静な声を、前に立つ主にぶつけたが、顔はニヤついていて、なんとなくその余裕が憎たらしい。
「とにかく、今は彼女の身体を癒したいんだ」
「かしこまりました、ルーナ様がお目覚め次第、お支度を整えて御前へお連れいたします」
「うん、よろしく頼む。俺はまた少し出てくる。すぐ戻る」
すよすよと眠るルーナのガサついた頬を撫でて、髪を一房、その掌に包んだ。
それからアドリアンはルーナの家へ戻った。焼けた家が気になったからで、何か持ち出せるものがあればと思った。だが全焼の家から持ち出せるものなど何もなく、アドリアンは一仕事してから城へ帰った。