災厄の魔女が死神の愛に溺れるとき

 城へ戻りながら、ルーナはすぐ目を覚まさないだろうと踏んで、目覚めるまでに色々と準備をしておこうと考えた。
 
 記憶をのぞいたところによると、フランが倒れてからはまともに食事をしていないように見えたから、お腹に優しいものを作る準備をしておくようシェフに指示をした。
 
 それからルーナの為に衣類を揃えた。城に行商を呼んで、舞踏会に行けそうなくらいのドレスとアクセサリー、靴の一式を2パターンと、カジュアルなワンピースを数着、下着を数セット、動きやすいスカート丈の短いものや薬草畑を再開させた時用の作業着と、寝巻きを数枚、魔女のローブを数枚購入し、クローゼットはいっぱいになった。

 風呂にも色々と用意をした。薬湯の素は、皮膚の炎症を抑えるもの、血行を良くするもの、硬くなった皮膚を和らげるものなどを中心に揃えた。シャンプー類からアウトバス用品も同じブランドのもので揃え、これまで花の香りなど漂わなかった浴室が一気に華やかになった。
 薔薇の香りがとてもいいから、ルーナも気に入ってくれると嬉しい。その香りはルーナに似合うはずだ。

 たっぷり甘やかしてやりたい。フランとの思い出に匹敵するくらいの良い思い出でいっぱいにしたい。そして笑顔を向けて欲しい。そう思ったとき、頼られるにはどうしたらいいかを気にし始めた。それで出た答えが、『毎日顔を合わせて接する機会を増やす』しかないと考えついた。それをルーナの、ここでの"仕事"とすることに決めた。

 露台でそんな事を考えていたら、ふわりと花の香りがした。この香りを纏うのはルーナしか居ない。緊張したアルベルトは室内をウロウロしていたのに、落ち着いたふりをして長椅子に腰を下ろした。

「旦那様、ルーナ様のお支度が整いましてございます」
 入り口の幕をくぐったルーナの姿に息が止まった。

 ――え、なに、うそうそ、待って!!! あのドレス着てくれたの??? 似合う!!! かわいい!!! かわ……え、輝いてる?! ええ……どうしよう、抱きしめたい、でも俺はジェントルマンだから! それにしても……かっわ!!!!

 口から心臓が出たかと思った。洗い上げられた髪はふわふわで綺麗な栗色をしていた。あの時グレーがかかって見えたのは、埃や脂などの汚れのせいだったのだ。

 ――子供の頃の髪色が戻った……!

 頬はやつれて見えるが、これは太ればすぐに健康的になるだろうから問題はないと考えた。伏目がちの、深い緑色の目は力が戻っていないようにも見えた。そりゃそうだ、とアドリアンは一人ツッコミを入れた。
 だが、もうあの場に居なくていいという安心感を少しでも感じて欲しいと思いながら、さらにルーナを観察した。
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