災厄の魔女が死神の愛に溺れるとき
表情はまだ硬いが、目の前のルーナのかわいらしさは魔界一だった。自身の生気でルーナの魂を守っておいて良かった。こんなに可愛い子の魂なぞ、すぐ誰かに勘付かれてしまう。目の前で魂を刈られでもしたら、いっそのこと自分の魂も刈ってもらいたい。でもそうならないように、城の奥深く、窓のない部屋に押し込めておきたい……。
「あの……」
――……鈴を転がすような耳心地のいい声……あの声で、閨で名を呼ばれたら……呼ばれたら?! 死んじゃう!
ルーナへの妄想が尽きないアドリアンは、今まで生きてきた中で、最善で最良で最大の選択だったと自分を褒めたい気持ちでいっぱいだった。
ルーナへ経緯をひと通り説明し、執事係からたしなめられながらも、ルーナの役割を告げ、その日のうちにルーナの部屋はアドリアンの隣室に移された。何故なら夜はアドリアンと共に寝るからだ。しかも部屋の中にも扉があって、アドリアンの寝室とつながっているような部屋だ。
「いいんですか? 私がこんな……お部屋……」
「旦那様がこちらを、と仰せですので問題ございません」
専用の洗面所やクローゼットの説明を受けていれば、アドリアンの寝室に通じる扉が開かれて、風呂を終えた彼が寝巻き姿で現れた。
「あとは俺が」
お世話係に声をかけると、彼らは一礼をして部屋を出ていく。ルーナはアドリアンに手を握られ、先ほど彼が出てきた扉の向こうへと連れて行かれた。
「かしこまりました。おやすみなさいませ」
パタン、と扉が閉まり、寝室に二人きりになると、ルーナは入り口で止まった。思い詰めた顔をしているのが気になって、その顔をのぞきこむ。
「ルーナ? どうした、今宵はもう眠ろう。何もしないから」
「わ、私は、騙されないんだから……。あなたも、家来の皆んなも、私を利用するだけして、いつか私を無視しだすんでしょ、追い出すんでしょ……わかってるんだか、らっ……! わたしは、災厄の、魔女でっ」
はたはたと涙を流す。両腕は身体の側面に垂らしていて、強く握り拳を作っている。
「そんな事はしない、ルーナを利用なんてしない。無視もしないと誓う。ここにはルーナを虐げる愚か者は居ない」
「そんなのわからない、今日は良くても、あなたの前では傅いていても、あなたが居ない時はどうなるかわからない、だって、私は、ダメな魔女だから、災厄を招くっ、からっ」
ルーナ、と名を呼んで緩く抱きしめた。
「彼らは風呂でルーナに暴言を吐いただろうか? 乱暴に扱ったか?」
ルーナはふるふると腕の中で頭を横に振った。
「彼らは信頼してくれ。彼らの忠誠心は厚い。もし君に何かしたら俺を殴っていい。彼らを雇っているのは俺だから。……すぐは無理でも、彼らを頼ってくれ。わがままを言って、そうしていつかは笑いかけてやって欲しい」
「……っ! 離して、私は、災厄のっ! 私に触れば、よくないからっ……!」
弱い力でアドリアンの胸を押す。離れたくて腕の中から抜け出ようともがくが、アドリアンがそれをゆるさない。