災厄の魔女が死神の愛に溺れるとき

「離さないよ、だって君は災厄なんかじゃないから。汚くなんかないから」
 ルーナに何を言っても無駄だった。興奮しており、聞く耳を持たない彼女を大人しくさせるため、強引に眠らせる事にした。後頭部に手を当ててルーナの目を見据えた。ルーナは一瞬怯んで、言葉を止めたその隙に、顔を近づけて口を塞いだ。

「んむ……!」
 離して、と言わんばかりに抵抗していたルーナは、薄く目を開けたアドリアンと視線が合った。銀の瞳の色が微かに金色へと変わった瞬間を見たルーナは、一瞬目を見開いて、やがて力を弱め、アドリアンの腕の中でくたりと崩れ落ちた。

 ――興奮しているなら寝かせてしまったほうが身体には良い……。眠って、身体の疲れだけでも取れたらいい。

 ルーナをベッドへ運ぶ。その瞳は未だ金色に輝いていた。

 こんなふうに傷つけた奴らが許せなかった。あの夜、ルーナの記憶を覗いた後に感じた怒りが再び込み上げた。

 覗き見たものを思い出しても、ルーナに何一つ非は無かった。ただ人間共が、自分の欲を満たすために、保身のために、魔女という彼女達の善意を搾取し続けた。町を支えていた魔女の死を悼むことすらせず、無理難題をルーナに押し付け、罵り、彼女の大切なものを壊して奪った。

 ルーナの隣に横臥して、そっと小さな身体を抱き寄せた。寝息は規則的で深い。

 ――ルーナは守る。
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