災厄の魔女が死神の愛に溺れるとき
第五章
 ルーナがここへきて数ヶ月が経った。

 大泣きをしたのは初めのあの時だけで、それ以降は泣くことはなかった。それでもたまに暗い表情を見せる時があり、夜はうなされた。そんな時はアドリアンに眠らせてもらって朝までぐっすり眠った。

 よく眠れば体力も戻ってきて、食事の量も増えた。顔色が良くなり心なしか頬もふっくらしたように思うし、毎日抱きしめて眠っているアドリアンには、その身体つきもしなやかに、また力強くなってきていることは感じていた。

 朝食をアドリアンと摂って、仕事へ向かうアドリアンを行ってらっしゃいのキスと共に送り出す。
 昼間は退屈だろうからと、中庭に薬草を植えてもいいと畑を作ってくれた。作業小屋も隣に建ててくれて、アドリアンが戻ってくるまで、そこで一日を過ごした。お世話係と共に、アドリアンが用意しておいてくれた作業しやすい服を着て、土に触れて過ごした後は、風呂で汚れを落としてアドリアンの帰城を待った。

「ルーナ、ただいま」
 仕事を終えたアドリアンが、露台の長椅子にいるルーナに向かってくる。

「っとと……眠っているのか」
 背もたれによりかかって眠るルーナに顔を寄せた。

「おかえりなさいませ、おや、お疲れですね……」
 アドリアンの視線の先に目をやって、お世話係が毛布を差し出した。包んでから抱き上げて、閨へ向かった。

「今日は畑で草むしりをなさっておいででした。それと……わたくしめに、今までありがとう、と声をかけてくださいましたが……」
「今まで? どういう意味だ」
「わかりかねます。そうおっしゃるお顔は笑顔でしたし、それ以降はいつも通りにございました」
「そうか……少し仕事を片付ける、用があったら呼ぶ」
「かしこまりまして」
 寝室へ入った頃、ルーナがうっすら目を開けた。

「あ……アドリアン……おかえりなさい」
 自分が抱き上げられている事に気がついているのか、アドリアンの首に腕を回して抱きついた。

「起こしてしまったか、ただいま、ルーナ」
 ベッドへそっと下ろす。
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