災厄の魔女が死神の愛に溺れるとき

 赤ん坊をカゴに戻し、ベッドの下の床板を外して金の入っている袋を一つ取り出した。フッと息を吹きかけ、これが金だとわからないよう魔法を掛けたうえで、伝書鳩にこれを届けさせた。魔力の無いものならただの鳥が飛んでいるようにしか見えない。魔力がある者が例えこれを見つけたとしても、自分宛じゃなければ鳩は降りて来ないから手に入らない。だからこれは確実に赤ん坊の両親の元へ届く。

 夫妻が家に帰り着くのとほぼ同じ頃、伝書鳩がやってきた。パチン、と指を鳴らせば、掴んでいた袋がポトッと落ちてきて、その重みに夫妻は喜んだ。いそいそとそれを拾い上げて家の中に入った。

 夫は酒を久しぶりに飲みたいと口にした。屋根の修理を明日にでも頼みに行けるし最新の農機具も買える。ついでに美味いパンも食べたい。病で伏した親へ栄養価の高い食べ物を買ってやれる。そう喜び浮かれ、ふと振り向いたら、がらんどうの小さな布団が目に入った。

 そうだった、もう我が子は居ないのだ。

 この金は、我が子を売った金だ。

 夫妻が愛し合って生まれた子で、本来なら愛情を注いで大きく育つはずだった。そうなるものと思っていたのに、家人の病気などで家には金が無くなった。働きに出ても、ザルに水を入れているように、あっという間に財布は空になっていった。考えた末、一番金になるのは、赤児を売ることだった。

 親としての不甲斐なさが夫妻を覆った。

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