あの夜は、弱っていたから
よし、今週も仕事終わり。

帰る支度をして、外へ出る。

今日は石井さんが出張中だし、マスターにも声をかけてもらったから、久々に飲みに行こうかな。

その前に、ボーナスが出たから、ずっと欲しかったピアス買ってからにしよう。

帰り道にあるお気に入りのブランドのお店に入り、前から欲しかったピアスを買った。

「はじめさん、これどうかな」

はじめ…さん?

石井さんと同じ名前に、思わず反応して立ち止まる。

よくある名前なんだな。

石井さんは出張中だから、いるはずがない。

だけど

「こっちの方が似合うんじゃないか?」

次に聞こえた男性の声に、私は心臓が止まるかと思うほど胸が大きくドクンとした。

そっと声のした方を見る。

私の目に映ったのは、スーツ姿の石井さんと、石井さんと同じくらいの年齢の女性。

今までの経験から、私はすぐに、浮気だとピンときた。

いろいろなものが、私の中でガラガラと崩れていくような感覚が走る。

そして、追い討ちをかけるような会話が聞こえた。

「来月の結婚式、楽しみね」

「そうだな。来年は子どもも産まれるし、お腹が大きくなる前に式挙げられて良かったよ」

結婚…子ども…。

違う、浮気相手になってたのは、私だ。

その現実が、私の心を容赦なく押しつぶす。

気づいたら、私はその場を立ち去って、近くの公園に来ていた。

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