あの夜は、弱っていたから
スマホを持ち、ゆっくりと、メールを打つ。

〝目撃してしまいました。今までありがとうございました。幸せになってください〟

非難する言葉は、打てなかった。婚約者からしてみたら、私が悪者だから。

送信ボタンを押すのと同時に、目から大粒の涙がボロボロとこぼれる。

「…っ」

やっぱり、私、男運ないな…。











「涼?」

涙を拭って、ベンチに座っていると、聞き慣れた声で名前が呼ばれた。

「…淳史」

近づいてきた淳史は、私の隣にどかっと座ると、しばらく沈黙した。

そして、

「…泣きすぎると、オバケになるぞ」

と、一言。

「…もうちょっとマシな言葉ないの?」

そう言い返すと、くくっと笑った淳史。

「浮気されたんだ?」

「…ううん。今度は私が浮気相手だった」

「なんだそれ。最低な男だな、そいつ」

淳史は明らかに、口調を強めた。

「私、やっぱり男運ないみたい。本当にこのままおばあちゃんになっちゃうかも」

冗談めかして言ったつもりなのに、淳史は乗っかってこなくて、私の調子が狂う。

「淳史、なんか言ってよ。じゃないと、私、惨めじゃないの」

そう言って、街灯の灯りに照らされた淳史の表情を覗き込む。

えっ…

私は、淳史の表情を見て、どう反応していいか分からなくなった。



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