あの夜は、弱っていたから
カランッ

「涼ちゃんいらっしゃい…。ご機嫌斜め?」

私を見るなり、苦笑いのマスター。

「淳史の俺様っぷりに…」

「あっくんと会ったんだ?それで、あっくんは来ないの?」

不思議そうに窓から外を眺めるマスター。

「15分くらいしたら来るそうです」

「そっか。涼ちゃん、いつもの?」

「はい」

私は椅子を引いて腰掛けて、出されたソルティドッグを口に運ぶ。

久々のマスターのカクテルが、色々あった身体に染み渡っていく。

「…あっくんって、ものすごく不器用だよね」

突然、マスターが私に話しかけてきた。

「…不器用なんですかね。俺様の間違いじゃなくて?」

「不器用だから、俺様になっちゃうんじゃない?」

なるほど…。マスターの言葉が妙にしっくりきて納得してしまう。

カランッ

「噂をすれば、あっくんいらっしゃい」

「マスター、いつもの。あと、ペン貸して」

ペン?

淳史は、マスターからペンを貰うと、私の前に一枚の紙をペラっと置いた。

えっ…

「淳史、これって…」

「これ出せば、信用できるよな?」

そう言って、自分の書くところを流れるように書いていく淳史。

マスターは、ニコニコしながら淳史の様子を見ている。

「ちょっと、淳史、これ貰ってきたの?」

「ああ。だって、涼が信用できないって騒ぐから」

「だからって…」

今目の前にあるのは、まさかまさかの、婚姻届。


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