あの夜は、弱っていたから
「淳史、この紙の意味知ってる?」

「知ってるよ。だからわざわざ貰ってきたんだろ?」

「これ出しちゃったら、私達、結婚することになるよ?」

「別れる気ねえんだから、出したって不都合はないだろ」

なんて極端な。

「涼、お前、どっちなんだよ。俺のこと好きなのか嫌いなのかはっきりしろよ」

「じゃ、じゃあ、淳史だってちゃんと言ってよ」

「はあ?俺、さっき言っただろ?」

「でも、好きって言ってない!」

私がそう言い切ると、淳史は前髪をくしゃっとして、マスターを見た。マスターはにこやかな笑顔のまま厨房の方へと姿を消す。

「一回だけだぞ」

「うん」

淳史は、私の目を真っ直ぐ見て、ゆっくりと口を開いた。








「涼、好きだ」









その言葉が、偽りのないものだって、はっきり伝わって、私の気持ちが温かくなった。

「俺、言ったからな。涼もだろう」

私は、淳史のすぐ目の前まで近づき、一度深呼吸をする。







「好きよ。あの一夜の時からずっと」






そう言って、私から淳史の胸元に飛び込んで、ぎゅっと腰に手を回す。

「涼、お前のこと慰めるの、俺だけだからな」

「うん」

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