あの夜は、弱っていたから

運命の人とは

『涼、来いよ』

バスローブ姿でベットに座っている淳史が、目の前に立っている同じくバスローブを身にまとっている私の手首を掴む。

『また、泣いてんのか』

『だって…思い出して』

浮気現場を目撃し、修羅場となり、彼氏を引っ叩いたけれど、悲しみはすぐには消えなかった。

『何も考えられなくしてやるよ』

泣きじゃくったままの私を組み敷いた淳史は、私と唇を重ねると、手際よくバスローブを脱がせた。

『こんないい女が彼女なのに、浮気する男が馬鹿なんだよ』

私の裸を凝視した淳史の言葉が、悲しみに包まれた私を少しずつ解放してくれる気がした。

淳史の普段の俺様の態度や、口の悪さからは考えられないくらい、丁寧に優しく私を抱いてくれる淳史に、私は少しずつ身を委ねていった。






目が覚めて、リアルすぎた過去の記憶に、自分の身体が熱っていることに気が付き、恥ずかしくなる。

『このまま、彼女になる?』

『…うん』

体の関係を持ち、そう聞かれたら、私は流れに任せて頷いていた。

だけど、淳史の隣にいると、今まで気にならなかった女子たちの会話が耳に入ることに気がつき、私は耐えられなくなった。

いつか、私にも別れが来る。そうなると、元カノとなってしまうんだ。

今まで友達として近くにいたけれど、それさえもできなくなるのが嫌だった。

私は、本当は淳史が好きだった。だけど、近くにいられるなら、友達のままがいい。

『…私、淳史とは友達のままがいい』

そう言って、今の関係に戻った。




< 5 / 18 >

この作品をシェア

pagetop