あの夜は、弱っていたから

遠ざかる一杯

『ごめん、涼ちゃん。今週の金曜は出張入って会えなさそう』

石井さんとお付き合いするようになって2ヶ月が過ぎたころのある水曜日、石井さんからメールが来た。

会えないなら、久々に飲みに行こうかな。

そういえば、淳史とも全然会えてなかったし。まあ、どっちみち彼女出来てたら来ないか。











カランッ

2ヶ月ぶりに聞くベルの音に懐かしさを感じる。

「よう。久々じゃん?」

先に来ていた淳史が、ウォッカを飲みながら私の方を向いて声をかけた。

淳史の顔を見て、ほっとしたのは、私しか知らない。

「うん。デートしてたからね。マスター、いつものお願いします」

ソルティドッグを待ってる間、淳史の隣に座って、薄手のコートを足元のカゴへと入れる。

「彼氏できたんだ?」

「うん」

「優しくて浮気しなさそうな奴?」

ウォッカの入ったグラスを揺らしながら尋ねた淳史。

「たぶんね。ちょっと年上だから大人の余裕もあるし」

「…年上ね。浮気するしないに年は関係ねえけどな」

不吉なことを言う淳史をキッと睨んで、テーブルに出されたソルティドッグを口に運ぶ。

「まあ、一歩進んだって感じか」

「そうね。そういう淳史は?この2ヶ月ずっとフリー?」

「いや、1ヶ月間だけいた」

「そうよね…。あんたが2ヶ月空くわけないか」

そう言うと、淳史は、くくくっと笑った。


< 9 / 18 >

この作品をシェア

pagetop