野良狼と野良少女
「…私のために学校さぼらせちゃってごめん」
「は、自惚れんな。ダルいからサボっただけって言ったろ」
なんて、口の悪い優しさは不器用な一ノ瀬くんらしい。
だってそもそもこの家は綾野家であって、一ノ瀬くんの家じゃない。
サボりたくて帰るなら自分の家でしょう?近所だし。
そもそもわざわざヤノくんか一葉ちゃんに家の鍵借りてまで帰ってきてくれたんだ。
「…なにその顔、うざ」
「むふふ、不器用だね野良狼さん」
「熱無かったら絶対シバいてた」
隣に座る一ノ瀬くんの髪に手を伸ばし、ふわふわと撫でる。
さながら大型犬。
狼なんかじゃないよ、別にそんなに怖くないもん。
たしかに人相は悪いけどね、朝よりマシ。
「俺は犬か」
「髪の毛サラサラだね、ふわふわだし」
スタイリング剤か何かがついてると思ったけど、驚くほどさらさらだった。
この人ほんとにブリーチしてるのかな、なんて思うくらい。
金髪だからしてるのは確実なんだけどね
「…熱上がってきてんじゃん、寝ろよ」
乱暴に私の首に触れる手はやっぱりひんやりと冷たい。
冷えピタを貼ったおでこでは検温できないんだろう。
「…一緒に昼寝する?」
「バカ。お前本当にバカ。ここまで来ると怖い」
一ノ瀬くんは化け物でも見るかのような視線を向けてから完食したお粥の土鍋を下げに行った。
釣れないなぁ、チャラ男のくせに。
ちょっとくらいのってくれてもいいじゃん、冗談なんだからさ。