野良狼と野良少女
「家まで送ってやるから帰れ。それかもうソファで寝ろ。ソファっつってもソファベッドだろ」
「私の家のセミダブルベッドには敵わないもん」
「頭のネジどこやったんだよお前」
そんな事言われても、熱に侵されて頭がろくに回ってないんだから。
病人には優しくしなさいってならわなかったの?
まぁ、もうすでに散々優しくされてるけど。
「じゃあ俺の家」
「…んぇ?」
「ベッドある、許可いらない、親に気使わなくていい。これで満足だろ」
はぁ、と大きなため息をついて一ノ瀬くんはスマホを操作し始めた。
…一ノ瀬くんの家か。うん、行ってみたいかも。
だってこの猛獣さんが一人暮らしでしょ?
うんうん、気になる。
「一ノ瀬くん」
「んだよ、タクシー呼ぶから邪魔すんな」
洋服の裾を引っ張るとあきらかに表情を歪めた人相の悪い一ノ瀬くんが顔を向ける。
「顔コワイ」
「うっせえ仮面少女」
そのままぶにーっと頬を手で挟まれてたこ口になる。
「病人には優しくしなさい」
「マジでお前治ったら覚えとけよ」
そんなこんなで10分ほどでタクシーが来て、5分乗ってすぐ降りた。
思ったより近くてタクシーを呼ばせてしまったのが申し訳ないくらいだ。