野良狼と野良少女
「…起きよう」
そうだ、いいこと思いついた。全部忘れたことにしよう。
何も無かった、何も無かった、私何も覚えてない。
高熱すぎて全部覚えてません。そうしよう。
そして熱が引いてるうちにさっさと家に帰ろう。
ガチャ
「…おはよう」
「やっと起きたか」
おそらくリビングに繋がっているであろう扉が開き、現れたのは一ノ瀬くん。
そりゃそうだ。家主だもん。一人暮らしだもん。
目が見れなくて俯くと、すぐさまソファから立ち上がってこっちに来る気配がした。
無にならないと、だめだよ、意識したら…
「何下向いてんの、熱は」
クイッと顎に手が添えられて上を向かされる。
そうなると私の視線は一直線に一ノ瀬くんの顔…いや、唇に…
「顔赤、でも熱はねえな」
額に添えられる手に、顔がぼっと熱くなった。