野良狼と野良少女
「…何、もしかして照れて顔赤くなってんの?」
「…っ」
図星をつかれて、ニヤリと笑みを浮かべる一ノ瀬くんから目を逸らした。
記憶ないふり作戦、大失敗らしい。
「またキスされるとでも思ってる?」
「…っ、な…!」
耳元で意地悪な声で囁く一ノ瀬くん。
その話題に触れられると思わなくて、さらに恥ずかしくて消えたくなる。
でも私の顔に添えられた一ノ瀬くんの手が顔をそらすのを許してくれなくて。
「…ばーか、冗談だよ。」
ぱっ、と手が離されて一ノ瀬くんが離れていくまで1歩たりとも動けなかった。
……あ、しないんだ。
なんて、少し残念に思ってしまっている私は相当重症だろう。
自分でも、びっくりするくらいに。
自分の気持ちなんて、考えなくてもこのうるさく暴れる心臓が物語っている。