野良狼と野良少女
「…嘘だよ、なんつー顔してんの」
「一ノ瀬くんのばか」
「ごめんって。機嫌治せよ」
呆れ気味のぐいっと私の腕を引いて、目線が合う。
あ、この目。私の目を見るこの優しい目。
いい加減わかる。
一ノ瀬くんが、キスしてくる時の目だ。
「っん……キスすればいいと思ってるの?」
「いや、俺がしたいだけ。」
「なっ…!!」
私はそんな単純な女じゃないよ、なんて言おうとしたのにそれを超えてきたこの男。
そして黙らされる私はやっぱり単純な女だった。
一ノ瀬くんのキスは優しい。
噛み付くようなキスだけど、ちゃんと優しさも感じる。
ああ、好きだな。って、そう思わされる。
「……すき、」
「…っは、煽んなよ」
つい口から出てしまった本音を聞いて、一ノ瀬くんは笑った。
ちょっとだけ、嬉しそうに。
「酸欠になるから、もうだめ」
トン、と胸を押し返せば一ノ瀬くんは一旦止まる。
無理やりだのなんだの文句言ったけど、やめてといえばやめてくれるから抵抗しない私が悪いのかもしれない。
「息止めんなよ、ばか。初心者。」
「な…!!もうむりだって、んむ…!」