野良狼と野良少女
一ノ瀬くんは1度キスし始めたら止まらないらしい。
本人が言っていたからきっと、いや確実に本当。
私は酸素が足りなくて限界なのに、涼しい顔して何度もキスをしてくる。
肺活量が人より多いのか、男の子だからなのか。
もう、何分間キスしてるか分かんないよ――
ガチャ
「……あ」
絶望。それ以外の何物でもない。
「旺太…!?叶野 さん…?え、お前ら付き合って…」
「えー!うそー!やだー!キスシーン見ちゃった〜!」
口をあんぐり開けて呆然とするヤノくんと、ニヤニヤ笑う一葉ちゃん。
ヤベ、とあまり思ってなさそうに声を出す一ノ瀬くん。
抵抗をあきらめ、放心状態の私。
「付き合っ……」
え、待てよ?付き合ってる?
私と、一ノ瀬くん。
私は一ノ瀬くんを好きになってしまった。
好きって、言ってしまった。
でも…一ノ瀬くんからそんなようなことは1度も言われてなくない?
付き合おうなんて話もしていない。
この関係って…
「…付き合った。悪いか。分かったらもう金輪際邪魔すんな」
一ノ瀬くんははっきりとそう言った。
二人から見えない角度で私の右手をぎゅっと握りながら。