野良狼と野良少女




「――羅奈?」




2人の声しか聞こえなかった静かなエントランスに低い声が響いた。



ドクン、と心臓が嫌な音を立てて鳴る。




なんで、いるの。

しばらく帰らないんじゃなかったの。





「……お、父さん」




指先が冷たくなって、心做しか足が震えている気がする。



相手は実の父親なのに。ただ家に帰ってきただけなのに。

私にとっては、“ 帰ってきただけ ” ではないんだ。




「羅奈ちゃん…と、お友達?」


「…ユリさん」




スーツ姿のお父さんの後ろから現れたユリさん。



なんで


いつもだったらユリさん一人で来させるくせに。




帰ってくるにしても私がいない時間に帰ってきてすぐ出ていくくせに。


なんで、一ノ瀬くんがいるときに限って鉢合わせなきゃならないの。



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