野良狼と野良少女
あなたの元に生まれてきたのが間違いだった、なんて思わせないで欲しい。
どんなに嫌いでも、憎くても、お母さんが最後まで愛していた人だ。
酷い扱いをしたらお母さんは傷つくかもしれない。
だから関わりたくない。会いたくない。干渉して欲しくない。
これ以上、嫌いにさせないでほしい。
「もうほっといて」
「放っておけ?1人娘を放っておけるわけがないだろう。」
一人娘を、ね。
それは娘として大切だからじゃないってことくらいもうわかる。
一人っ子の私と、社長の父。
このままいけば後継者はきっと、私と結婚する人になる。
跡を継ぐ人を見つけなきゃ行けないんだ。
私を自由に生きさせてくれるわけもない。
ギリ…
握った拳に力が入り、気づけば手のひらにくっきり赤く爪の跡が残っていた。
「…羅奈」
「っ、」
「行くぞ」
私の手をとり、握っていた拳を開かせた一ノ瀬くんはそのまま歩き出した。
エントランスから出て、父とユリさんには背を向けて
もちろん、4人とも手を振るわけもなく。
頭がぐちゃぐちゃで、何も考えられなくて、でも悔しくて涙が出る。
下唇を噛めばすぐに一ノ瀬くんに気づかれて怒られるのだった。