野良狼と野良少女
「羅奈ちゃん、いこ」
壮馬さんに腕を引かれるまま、私は一ノ瀬くんたちの隣を通り過ぎた。
御手洗の前まで来れば、先に個室に戻ってるという壮馬さん。
どうやら出てきたのは私が心配でたまたまだったらしい。
「はぁ…」
お手洗いを出て、席に戻ろうと入口側の通路を通った時だった。
「だからぁ…」
「…っ」
一ノ瀬くんに耳元で小声で何かを伝えるエミリさん。
そしてそれを拒まず耳を貸し、話す一ノ瀬くん。
ああ、見たくないものを見てしまった。
やっぱり、来るべきじゃなかったんだ。
「はい、見ない見ない。羅奈ちゃん、おいで」
「壮馬さん…」
「荷物もってきた。お金も置いてきたから、帰ろ。ごめんね連れてきた俺が間違いだった」
私のカバンを持ち、上着を羽織って出てきた壮馬さんに腕を引かれるまま店をでる。
お酒のせいか、涙腺が緩くなってしまった私は今にも泣きそうな心を抑えることで精一杯だった。