野良狼と野良少女
「家ここ?こっから1人で帰れる?」
「…はい、送ってくれてありがとうございます」
「心配だな。まあ家ついたら連絡して、俺のID追加しとくから」
はいスマホ貸して、と言われるまま貸せば連絡先に “ 壮馬 ” という名前が追加された。
…友達、8人になっちゃった。
「ねぇ、泣きそうでしょ」
「…っ、そんなことない、です」
図星をつかれて俯けば、ぽんぽんと優しく頭を撫でられる。
その優しさに涙が溢れてしまった。
「旺太もやんちゃしてた時代は女選ばず隣に置いてたし、あの子もその時代の名残りみたいなもんだよ。あんま気にしないで」
「…っ、」
遊んでた時代の名残り。
そんなもの、余計に気になってしまう。
私の知らない、一ノ瀬くんの過去がある。
エミリさんは一ノ瀬くんと、私より前からずっと深い関係。
手は繋いだのかな。抱きしめられたのかな。キスは……
なんて、過去のことなんて考えても無駄なのに。
どうしてももやもやしてしまうのは、きっと私の心が弱くて不安だからだろう。
「お酒入ってるせいもあって感情ばぐってるね、家入ってゆっくり休みな」
「…ありがとうございます」
背中を押されてオートロックをぬけ、部屋に着くなりそのままリビングのソファーに飛び込んだ。
もう何も考えたくない。泣きたくない。
目が腫れてしまったら、いよいよ明日一ノ瀬くんに顔向けできないじゃないか。
そう思っても感情はうまくコントロールできなかった。