野良狼と野良少女
「…なんかテンションおかしくない?お前もしかして」
「…お酒飲んだの。ちょっとだけ。」
「は?なんで?誰に飲まされた」
私の手首を握る一ノ瀬くんの手にギュッと力が込められた。
ちょっとだけというのはうそだ。
結局ほとんど飲み切ってしまった。
「誰でもない、烏龍茶頼んだのにウーロンハイが来ただけ」
「はぁ…エミリの奴またやりやがったな」
「…っ」
一ノ瀬くんが、エミリさんをエミリって呼んだ。
あの女の子を寄せつけない一ノ瀬くんが。
私と一葉ちゃん以外の女の子の名前を聞くのは初めてだな。
私ですら時々お前とか呼ばれるのに。
なんだかすごく、悲しくなってきた。
「…とにかく、水持ってくるから。飲んで。一旦酒抜いて酔い覚ましてくれないと話できない」
一ノ瀬くんが冷蔵庫からお水を持ってきてくれたけど、私はそれを飲まずにただ泣き続けた。
だって、涙が止まらないんだもん。
特別なにかをされたわけじゃない、なのに。