野良狼と野良少女


「…なんかテンションおかしくない?お前もしかして」


「…お酒飲んだの。ちょっとだけ。」


「は?なんで?誰に飲まされた」





私の手首を握る一ノ瀬くんの手にギュッと力が込められた。




ちょっとだけというのはうそだ。


結局ほとんど飲み切ってしまった。




「誰でもない、烏龍茶頼んだのにウーロンハイが来ただけ」


「はぁ…エミリの奴またやりやがったな」


「…っ」





一ノ瀬くんが、エミリさんをエミリって呼んだ。


あの女の子を寄せつけない一ノ瀬くんが。




私と一葉ちゃん以外の女の子の名前を聞くのは初めてだな。


私ですら時々お前とか呼ばれるのに。




なんだかすごく、悲しくなってきた。





「…とにかく、水持ってくるから。飲んで。一旦酒抜いて酔い覚ましてくれないと話できない」





一ノ瀬くんが冷蔵庫からお水を持ってきてくれたけど、私はそれを飲まずにただ泣き続けた。




だって、涙が止まらないんだもん。


特別なにかをされたわけじゃない、なのに。





< 190 / 240 >

この作品をシェア

pagetop