野良狼と野良少女
「羅奈、飲んで」
「…いやだ」
「はぁ…文句言うなよ」
一ノ瀬くんは盛大なため息をついたかと思えば、ペットボトルのお水を口に含んだ。
一ノ瀬くんが飲んでどうするの、なんて言おうとして顔を上げた時。
「…ん」
迫ってきた一ノ瀬くんに口をふさがれ、舌でこじ開けられた隙間から水が流れてくる。
冷たい、気持ちいい。
でも…キスなんか、今はしたくないのに。
「やだ」
「喋んな」
顔を逸らしても水が口の端からこぼれてもまた前を向かされて、口を塞がれる。
何度目か分からないキスに頭がクラクラしてきた。
「…寝な。ここにいるから。」
「……やだ、もう一ノ瀬くんなんか……!」
「嫌いって言うなよ。酔っぱらいのお前でもさすがに傷つくから」
穏やかなその笑顔は、とても嫌いと言える顔じゃなかった。
「…おやすみ」
その言葉と同時に目尻の涙が拭われて、私の意識はここで途絶えた。