野良狼と野良少女
「――サン、叶野サン」
低音ボイスに名前を呼ばれてハッとする。
ひとりの世界にトリップしてたけど、そうだここ教室だ。
幸い突き刺さっていた視線はどこかへ消えていた。
「……なん、ですか」
一ノ瀬くんはその鋭い目で私をじっと見つめてくる。
無視質なその瞳が何を考えてるかなんて、分かんないよ。
「……いや、なんでも。ヤノもう席もどれうざい」
「ひどっ」
「寝るから。戻れ。」
ヤノくんは泣き真似をしながら自席に戻っていく。
まるで飼い主にハウスと命令された子犬のようだ。
……あの日のこと誰にも言わないでって言いたいけど、ここでその話題を出せるほど勇気はない。
というか自分からオオカミくんに話しかけるの?
いやぁ無理ですよ…
なんて、頭を抱えていた私の上にふと影が落ちた。