野良狼と野良少女
「……いかないよ、たぶん」
それしか生きていく方法がなくなったら分かんないけど、しばらくはこりごりだ。
都合よくまた助けてもらえるわけもないし。
何よりもあのおじさんの顔が、声が、息遣いが今でもトラウマのように頭に残っている。
「…多分ってなんだよ、またホテル連れ込まれてぇのか」
さっきまで少し穏やかだった一ノ瀬くんが急にスっと真顔になり、鋭い目で私を睨む。
…なんで私怒られてるの。
まぁ、助けて貰って迷惑なり心配なりかけたのは私だけど
一ノ瀬くんに怒ってもらうような仲ではないはずだ。
「……助けてくれたのはもちろん感謝してる。でも私お金ないの。だからもう二度としませんって約束は出来ないよ。…あの時おじさんに渡してたお金は返すから」
一ノ瀬くんがおじさんに投げつけたお金。
パッと見ただけだったからいくらあったか正確にはわからない。
もちろんお金のない私にすぐ返せる額ではなさそうだけど、バイトを頑張れば返せないことはないだろう。