野良狼と野良少女
「聞いてる?アミちゃん」
「っ、はい。もちろんです」
人生で初めて、愛想笑いが得意な人間でよかったと思った。
へらっと笑いかければ、満足そうに話の続きをべらべらと語り始めた。
内容は、微塵も入ってこない。
それからおじさんは気が済むまでお酒を飲み、おつまみを頬張り、私に仕事の愚痴を吐いた。
全部全部、お金のため。
私の少しの我慢で、それ以上の対価を得られるんだから。
そんな思いで必死に2時間耐え抜き、午後12時をすぎた頃。
「ご馳走様でした、帰りましょっか」
「――え?何言ってんの?」
お会計を全額奢ってもらい、居酒屋をでた店先。
駅の方に体を向けた私は後ろから右腕を思い切り掴まれた。
「いたっ…」
「そこ、入るよぉ。」
おじさんが無理やり私の肩を抱き、向かいのネオンが光るビルを指さす。
ここって…
「ホテル、なんて、行きません…ご飯だけって約束じゃないですか…!」
「はぁ?何言ってんの?」
ニヤニヤしていた表情は消え、おじさんは冷ややかな目で私を睨む。
ゾワッと鳥肌が立った気がした。
やばい、逃げないと。
本能が私にそう語りかけるけど、肩は掴まれてるし足がすくんで動けない。
男の人の力の強さを私は甘く見ていた。