野良狼と野良少女




「聞いてる?アミちゃん」

「っ、はい。もちろんです」




人生で初めて、愛想笑いが得意な人間でよかったと思った。



へらっと笑いかければ、満足そうに話の続きをべらべらと語り始めた。


内容は、微塵も入ってこない。





それからおじさんは気が済むまでお酒を飲み、おつまみを頬張り、私に仕事の愚痴を吐いた。


全部全部、お金のため。

私の少しの我慢で、それ以上の対価を得られるんだから。




そんな思いで必死に2時間耐え抜き、午後12時をすぎた頃。





「ご馳走様でした、帰りましょっか」

「――え?何言ってんの?」




お会計を全額奢ってもらい、居酒屋をでた店先。

駅の方に体を向けた私は後ろから右腕を思い切り掴まれた。




「いたっ…」

「そこ、入るよぉ。」




おじさんが無理やり私の肩を抱き、向かいのネオンが光るビルを指さす。

ここって…





「ホテル、なんて、行きません…ご飯だけって約束じゃないですか…!」




「はぁ?何言ってんの?」




ニヤニヤしていた表情は消え、おじさんは冷ややかな目で私を睨む。

ゾワッと鳥肌が立った気がした。




やばい、逃げないと。

本能が私にそう語りかけるけど、肩は掴まれてるし足がすくんで動けない。


男の人の力の強さを私は甘く見ていた。



< 3 / 240 >

この作品をシェア

pagetop