野良狼と野良少女
「そこからかよ、クラスメイトの顔と名前くらい知っとけ。あいつは綾野 太一(アヤノ タイチ)だからヤノ」
「1文字くらい省略しないで呼べばいいのに…」
「俺に言うな。みんなそう呼んでんだろ」
友達がいない私にみんな、なんて常識を求められても困るのですが。
「なんでヤノくんの妹と私が?」
「あいつも友達いねぇから」
だから学校来ないの?とも思ったど、さっきの写真を見る限りそこまで繊細な女の子には見えなかった。
失礼ながら、どちらかと言えばギャル…
「 “ 学校って空間は可愛くないし楽しくない ” って言ってたな」
「学校が可愛くない…?」
当たり前では?なんていう疑問は一ノ瀬くんの黒い瞳に吸い込まれた。
なぜなら彼は大真面目な顔で話しているからである。
……少しは疑問に思ってくれ、たのむ。
イカつい見た目して、イカつい武勇伝もいっぱいあるのにこんなピュアだなんて。
私の中の一ノ瀬旺太という人物像が乾いた砂のように崩れ落ちていく。
「一ノ瀬くんの周りって思考が独特な人しかいないの?」
「周りっつってもヤノ兄妹だけだろ」
あんたも含めてだわ。
なんてツッコミは心の奥にしまっておくことにした。
「あいつ可愛いものに目がないんだけど」
「可愛くないから学校こないなんて言ってるくらいだもんね」
「だからお前がいれば来るんじゃねぇかなって」
……
「どういうこと?」
「バカ」
「待って一ノ瀬くんにだけは絶対言われたくない」
「わかったわかった。もうなんでもいいから、とりあえず行くぞ」
「はい?」
一ノ瀬くんは呆れたようにため息をついて荷物をまとめ始めた。
その様子を私はフリーズしたまま眺める。