野良狼と野良少女

野良少女


【羅奈side】


――パタン。


「ただいま…」




電気ひとつついてないマンションの部屋に入り、返事の帰ってこない挨拶は暗い廊下に消える。




もう、何年も前から当たり前になったことだ。




1時間ほど前まで一ノ瀬くんに一葉ちゃん、矢野くんに囲まれてあんなに賑やかだった私の周り。


一気に無音の空間になり少し寂しいと感じてしまう。


1人には慣れていたはずなんだけどな、なんて。





ガチャ


「あら、羅奈ちゃん?」




誰もいないと思っていたのに、実は人がいたらしい。


人と言っても、スタイリッシュなスーツ姿で現れたその女性は母ではなければ、家族でもない。




「お久しぶりです…ユキさん」


「久しぶり、大人になったね」


「ユキさんこそ…髪の毛切ったんですね、似合ってます」




私が普段立ち入らないその部屋から出てきた彼女。



…父の秘書兼お世話係、ユキさん。

私も幼い頃から知っている、母の友人でもあった人だ。



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