野良狼と野良少女


「っくしょい!わ、冷水じゃん…」




ぼーっとしすぎていてシャワーが冷水に変わったのに気づかなかった。



だめだめ、しっかりしよう私。

ただちょっと抱きついて寝てしまっただけだ。




元ヤンの一ノ瀬くんだし、女の人に抱きつかれるなんて慣れてるに決まってる。


今更私に抱きつかれようがキスしようがなんとも思うわけ…




自分で言っといて、なぜか少しだけ胸がいたんだ。




「キス…」




その単語を思い出すだけで記憶がフラッシュバックする。




一ノ瀬くんの柔らかい唇が重なって、痛いくらい熱を持って。


思い出すだけで唇があつくなる。




「だめだめだめだめ、鱚鱚鱚…」




カタカナ表記で思い出すのはやめよう。




魚だよ魚。

魚の鱚。





いつも通り接するんだ、何も無かったように。

そう何も無かったことにすればいい。




煩悩を取り払うようにシャンプーを泡立てれば頭がクラクラした。



だめだ、さっさと上がろう。今日の私はなぜかとことんだめだ。




これ以上醜態をさらす前にさっさと学校に行く準備して…



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