風船より遠く

第一章 風香

 こんな人通りの多い場所で迷子になっちゃうなんて、本当にツイてなさすぎる。

 私ってこんなに運悪かったっけ?

 私の手元にある物といえば、数分前にお母さんに買ってもらったオレンジの風船だけ。
ハンカチは友達に貸したままそれっきり。返してくれる雰囲気すら感じられずに転校してしまった。

ま、私も彼女と変わらないんだけど。

 お母さんはどこかに行ってしまったし、私がここから動けばこれ以上に迷子になってしまう。

それじゃあ元も子もない。

 きっとお母さんはお母さんで私を必死で探しているだろうし、辛抱強く待つしかない。
お母さんからもらったひとつの風船は、今の私のお守り。

だって、お母さんがわざわざ買ってくれたんだもん。

 いつもなら絶対そんなことしてくれないのに、今日に限っていいよって言ってくれた。
数分前まで嬉しいことばっかりだったのに。
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