風船より遠く
 ビュンっと風を切って通り過ぎていく女の子。突然すぎて、反応できなかった。

とても急いでるみたいな鋭い雰囲気、空気感。

「あ、むぎ?」

 え?

「わん?」

 はい?

 僕のこと知ってるの?

「覚えてない? すずだけど」

「わんわん」

 ああ、あのすずさんか。随分と大きくなったなぁ。

「一人なの?」

「わんわん」

 ううん、置いてけぼり。

「すずと一緒に行かない?」

「わん? わんわん」

 すずさんと? 連れてって!

 伝わってるのか分からないけど、人間と犬だから言葉なんて分かり合えないけど。なんか分かるんだ。

どうしてか、ピキッとくるんだ。

 すずさんと一緒に道を進んでいると、さっきみたいに女性が走ってきて、はあはあと肩で息をしていた。

「風香……」

 そんなふうに呟いた気もしなくもない。
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