風船より遠く
 不吉な、風だった。

 咄嗟に風船を持つ手に力を入れたけれど、間に合わなかった。

 手から風船が、風に煽られて、空に消えていく……。



 風船が、手から飛び出していく。

 風船が、空に昇っていく。



 嗚呼……。

 私には何もない。

 最後の風船は旅立ってしまった。



 私を一人、置いて行って。



 私をたった一人で残して行って。



 私は不吉に恵まれてるみたい。

 不吉に恵まれてるっておかしいけど、今の私にはこれが一番ピッタリ心に当てはまる。
そして、これ一つとして傷つかない自分がいる。

 私そのものが不吉。

 転校した彼女も、私と出会ったことで不吉を感じたのだろう。

 私は不吉の原点で、私は誰かといると不吉を招く悪魔。

 ふと、天に昇るオレンジの風船を見上げた。

 夕日の太陽と重なって、輝いて見える。 私が持ってたときはこれっぽっちも輝いてなかったのに。

 これも、私の不吉の力だよね……。

 私はこれから陰で暮らそう。

――透明人間になろう。

 なりたい。

 不吉な私は透明人間。
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