風船より遠く

第二章 お母さん

 風香(ふうか)には風船買ってあげたし、これでもういいか。

 別に風香だって、一人で生きていけるだけの浅はかな知恵はあるんだし。一人で置き残してもなんとかなるでしょ。

 もう風香と一緒に暮らすなんて疲れた。

 元々は子供だって欲しくなかったのに、風香のせいでやりたいことをいくつも縛らされた。

人生の少しを風香にあげてしまったから。

無駄に子供の世話をして、わざわざ面談を受けに行って「いつもいい子です」なんて報告しなくてもいいようなことを喋って風香のことを語ってきて。

 なら、風香を買ってほしい。そして、精一杯自分の人生を風香にかけて、育ててあげてほしい。

 母親として、自分でも駄目だったことは分かってる。

 途中で子供を捨てて置いてけぼりにするなんて、最低だってことも分かってる。

 でも、そうしないと自分の身が保たないと思った。風香は空気が読めるし、駄々こねないし、いつも人のために頑張っている。

 それはきっとお父さん似なんだろう。

 風香は優しいから声や表情には出さないけど、本当はどうなんだろう。

 都会という人の多いこの街で、風香との最後の思い出はあの風船だろうか。

 買ってあげたとき、風香はお守りみたいに大事に抱きしめてたなぁ。
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